砂漠でバザーをやっているとの情報を得た一行は、買い物好きであるアリーナの意向により、バザーへ向かう事にした。バザーはちょうど砂漠の真ん中で行われており、辿りついたころにはすでにへとへとになっていた。 「うう……暑い……とりあえず休みましょ。」 「そうですね……熱中症になっちゃいます。」 「私も賛成です……。」 「………くたばりそうじゃ。」 ふいてもふいてもあふれ出る汗を、汗ばんだ腕でふき取ると言う、なんとも不毛な作業を幾度となく繰り返しながら、宿屋へ歩いて行き、ゴールドを払うと、休憩を取る事にした。 「……ここって、シャワーあるかしら?」 案内された部屋でベッドに横たわり、一息ついたアリーナが、同じくベッドに横たわって目をつぶっていたに問いかける。ぼうっとする頭で思考をめぐらせて、乾いた喉で声を絞り出す。 「あるのでは?……一応、宿屋ですし、人もいますからね。」 というより、なかったら大変な事になる。髪は汗や砂できしきしで、汚い。服もたくさんの汗を吸っていて、そのうち異臭を放ちそうだ。上体を起こして、額に纏わりつく前髪をかきあげる。 「調べてきます。それから……飲み水も持ってきます。」 「いってらっしゃ〜い」 手をひらひらと振り、を見送ると、アリーナは目をつぶってまもなく寝息を立て始めた。階段をおり、宿屋の主人にシャワーの有無と、飲み水はどこにあるかをたずねる。 どうやら風呂場があるらしい。それから飲み水を四人分いただくと、男部屋にクリフトとブライに水を渡し、風呂がある事を伝えると、とても感謝された。 「ありがとうございます! もう、汗だくで気持ち悪くて。それに喉も渇いていて……本当にありがたいです。」 「さすがですな。気が利く……アリーナ様もこのような女性になっていただけたらよいのじゃがな。」 「……それはどうも。」 みんなのため、と言うよりもむしろ自分のため、と言うほうが強いのだが、どうやら自分が親切心で行ったと捉えてくれたらしい。訂正は別にする必要もないと思われたので、はそのままにして、男部屋を後にした。 「姫、お風呂あるみたいです。それからこれ、飲み物です。」 部屋に入り開口一番に言うが、返事はない。それどころか、寝息が聞こえてくる。どうやらアリーナは寝ているようだった。無理もない。暑くてたまらない砂漠を突き進み続けて数時間。疲れないほうがおかしい。 だが、熟睡した後、身体がべたべたして汚いままっていうのは、どう考えてもいただけないだろう。は心を鬼にして、アリーナを揺り起こす。 「姫、おきてください。お風呂いきましょう」 「ん………あ、? 寝ちゃってたわー。 どうしたの?」 「お風呂あるらしいです。いきましょう。」 「んー……わかった。」 ごしごしと眠たい目を擦りながら上体を起こして、のそのそと歩き出したと思ったら、部屋からでていった。姫はお風呂の場所を知ってるんでしょうか?なんて思いながらも、着替えを鞄から取り出して急いで部屋を出る。 部屋の前にはぼーっとうつろな瞳で何かを見つめているアリーナがいた。 「……、あたし肝心のお風呂の場所、知らなかった。」 「はい。そうですね、こっちです。」 主人に教えられたとおりの道を歩いて行き、風呂にたどり着く。風呂の中で何度も眠りそうになっているアリーナをそのたび起こしながら、風呂を終え、部屋にもどる。 すっかり暗くなった外を窓から見て、今日はもう寝よう。とベッドに横になった。隣のベッドではもうアリーナが眠りの世界へ旅立っている。その様子を確認して、も目を閉じた。 眠りにつくにはそう時間はかからなかった。 王の危機 次の日、すっかり疲れの取れたアリーナたちはバザーへ繰り出した。 「さー! 買うわよー!!」 昨日とは打って変わってこの元気。はそのことを嬉しく思いながら、おー! と腕を天へ突き上げた。クリフトとブライは彼女らの少し後ろを歩く。 「私達は今日、荷物持ちですね。」 「そのようじゃな」 クリフトは苦笑いを浮かべた。前を行くアリーナとの髪が歩くたびに、嬉しそうに揺れている。その後姿を見れば、文句なんて一言も出てくるわけがなかった。 「たまには……いいんじゃないでしょうかね?」 「ですな。」 バザーでたくさんの装備品や食料、水分、はたまたアクセサリーなどを購入していると、もう半日が過ぎていた。そろそろ宿屋に荷物を置いてこなければ、クリフトとブライが持たないと言うときに、見慣れた鎧を身に纏った兵士が一人、駆け寄ってきた。 「姫!! 大変です!! 王が…!」 「な、なに!? どーしたの!?」 尋常な様子ではない兵に、アリーナの心に不安がよぎった。自分がいない間に、いったい何が起こったのか。まさか、父の命が……。と、思考がそこまでめぐって、ぞっと悪寒が走る。 「王の声が……でなくなってしまったのです!」 アリーナが想定した最悪の事態は免れたようだった。そのことに少し安心したが、王が無事と言うわけではないのだ。気は抜けない。 「どういうことなの?」 「詳しくはわかりません……。ともかく、姫! 一刻も早くサントハイムへお戻りください!」 はちらりとアリーナの顔色を伺うと、焦燥感にかられてる、そのような表情をしていた。当たり前だろう。自分の父の声が突然出なくなってしまったのだ。王の無事が気になる。 「、クリフト、ブライ……。サントハイムまで戻りましょう。急いで。」 深刻そうな顔で、アリーナは言った。三人は黙って頷き、バザーを後にした。目指すはサントハイム。旅の始まりの地であり、いずれ帰るべき故郷。 |