「姫! 無事ですか!!」
、クリフト、ブライ! 敵のお出ましよ!」

 どこか楽しそうなアリーナの表情を見て安心しつつも、現れた怪物、と言うには少し過大すぎる魔物たちとの戦いが始まった。
 クリフトがスカラで全員の守備力をあげて、がルカニで敵の守備力を下げる。準備が整った後、アリーナが勢いよく拳を振り回す。本来姫の護衛である騎士の は、彼女を護りながら、自慢の槍で敵を突き刺しながら、時に攻撃魔法を唱え、闘っていく。
 クリフトとブライは後衛で、クリフトは主に回復を担当し、ブライは攻撃魔法でダメージを与える。

「くらえーっ!」

 アリーナの一撃で、村を恐怖に陥れていた魔物が倒れた。



偽者姫



「ありがとうございます。ありがとうございます。旅のお方……あなたがたは村の英雄です。今夜は泊まっていってください」

 感涙を流しながら語った神父の“英雄”と言う言葉を少しこそばゆく感じながらも、村の宿屋に案内されて疲れた身体を癒すために眠りについた。
 夜が明け、宿屋を出ると、昨日までの悲しい雰囲気はどこかへ消えて、人々の顔に活気があふれている。子供は怪物がいなくなったことを喜び、はしゃぎまわり、神父は昨日の出来事をまるで自分の事のように喋っている。
 神父のもとへいくと、嬉しさに頬が緩んでいる神父が、一同に気づいて頭を下げた。

「もう村中の人が知っていますよ! 本当にありがとうございました!! 村長の娘も喜んでいることでしょう。……ああ、うわさをすれば。村長の娘のニーナです」

 神父の視線をたどり振りかえると、若い女性と男性が立っていた。

「ニーナです。この村を救ってくれてありがとうございました……本当に感謝しています。さらわれた娘たちはもう戻ってこないけれど、その分もしっかり生きるつもりです」
「僕からもお礼を言います。実は僕達結婚を控えてて……本当に、本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げた。この村に平和が戻ってよかった、とは安堵に口元を緩ませた。我らがアリーナ姫が村人のために一肌脱いで怪物退治をしたのだ。としては誇らしくてたまらない。けれども、もう少し早くテンペにたどり着いていれば、もっと多くの娘を助けられたのに、という後悔はやはり胸に残る。
 世界にはこうやって魔物の脅威に脅かされている人々もいて、その魔物を退治することは人助けにつながる。アリーナの力試しの旅も、ちゃんとした意味を持つのだ。と感じた。

「どってことないわ。力試しの旅だからね、自分の力がどこまで通用するのか知りたかったし」

 神父が「力試しの旅ですか」とアリーナを見て、言葉を続けた。

「ならばエンドールで開かれていると言う武術大会に出てみなされ。きっと自分の力がわかるであろう。といっても、あなたに敵うような相手いるのか謎ですがな」

 “武術大会”と言う単語に、アリーナが瞳を輝かせる。

「武術大会……。ありがとう! そうね、参加してみる事にする」
「教会の奥の森を抜けて、そこからエンドールに向かうとよいですよ」

 神父の言葉から、旅の目的地がエンドールに定まった。ブライは反対なのだが、アリーナはこうだと決めたらやりとおす人間だ。ブライに反対されたからといって諦めるわけがない。ぶつぶつと文句をたれるブライを気にせずに、エンドールの武術大会に参加する事を決めた。

「エンドールが、まだ見ぬライバル達があたしを呼んでる!」
「かっこいいです姫!」

 が黄色い声を上げたところで、アリーナご一行はエンドールへの道のりを歩き出した。

+++

 エンドールへ行く途中にある町、フレノールで旅に必要な飲み物や食べ物、それから武器や防具を揃えるために寄る事にした。旅路の途中、アリーナは口を開けば武術大会のことを喋り、そのたびブライが小言を呟く。とクリフトはどちらのとばっちりもごめんなので、あくまで中立を貫いていた。

「ああ、 はやくエンドールにつかないかしら……」
「できればもう旅を終わらせたいですがな」

 アリーナがブライを睨みつける。嫌な雰囲気が漂う。とクリフトは明後日の方向を向いて、苦笑い。本当ならアリーナの味方をしたいのだが、ブライの小言攻撃は絶対にお断りしたかった。

「もう、! なんとかいってやってよ!」
「え、えへへ……まあまあ」
「クリフト! 姫を説得してくだされ!」
「ああ、あははは……」

 中立とは、非常に大変な立場である。

+++

 野宿を繰り返し、道中は魔物に襲われながら、且つアリーナとブライのいがみ合いに苛まれながらもなんとかフレノールにやってきた。フレノールに足を踏み入れた瞬間から、何やら、何やら町全体がやけに騒がしく、不思議に思う。

「……どうしたんでしょうか? なんだか賑やかですね」

  はきょろきょろとあたりを見渡しながら、誰に言うわけでもなく疑問を口にする。

「さあ、なんかみんな宿屋を見てるみたいだけど、なんなのかしら? まさかすっごい強いやつがいるとか!?」

 アリーナの言う通り、宿屋らしき建物の周りに人が集まっている。

「姫、もしや世間にはびこる悪の根源が宿屋にいるのかもしれませんぞ、危ない危ない。ささ、サントハイムに帰りましょう」
「ブライだけ帰ればいいじゃない」
「なんですと姫! わしが帰るときは即ち姫が帰るとき!」
「あたしは帰らないわよ。でもブライは帰りなさい」
「ひ、め!」
「あああ! そこらへんにしといてください!!」

 再び睨みあいが始まったときに、間に挟まれたクリフトが止めに入り、なんとか喧嘩は免れた。

「で、では、騒ぎのもとに行ってみましょうか」

  の提案に、そうね。とアリーナは渋々頷き、宿屋へ向かって歩き出した。

+++

「あの、どうかしたんですか?」

 宿屋の前で楽しそうに会話をしているおばさん二人組みのところへはやってきて、尋ねる。

「ああ! 旅人さんかい? どうやらサントハイムのお姫様がこの宿屋にきてるみたいなんだよ!」

 え? と、がキョトンとした。サントハイムのお姫様、と言うのは唯一無二、アリーナだけだ。ちら、と思わず後ろを見る。少し後ろでアリーナは楽しそうな顔で腕を組み、きょろきょろと町を見物している。姫であるアリーナは現在、力試しの旅に出ているのだ。自分とその他二人とともに。
 再びおばさんを見て、苦笑いを浮かべる。

「そうなんですか、ありがとうございます」
「でもねえ、さっきあたしゃ見たけどね、大して可愛くなかったよ」
「なっ! 姫が可愛くなっ………そうでしたか。わかりました。では」

 あやうく我を忘れて叫び散らそうになったのをなんとか押しとどめて、おばさんたちに頭を下げた。くるりとアリーナたちを見ると、先ほどまでの楽しそうな顔が一変して、不機嫌そうに眉を寄せていた。
 は涙を目じりに浮かべながら、弁明する。

「姫のことじゃないんです! 何者かが姫に変装しているのです! ですので断じて姫のことではありません! 姫は世界一可愛いです! 誰よりも、本当に素敵です!!」
「もう、それぐらいわかってるわよ。ただ、やっぱりちょっと嫌ね。と思っただけ。そんな必死にならないで」
「はい……。わかりました」

 しゅん、とうなだれると、アリーナがよしよし。と頭を撫でてくれ、不覚にもの心臓は飛び跳ねてしまった。クリフトが羨ましそうに二人を見て、ため息をついた。

(女性同士って……ずるいです)