『サランの町なんて城の庭みたいなものだわ。もっと遠くへ行きましょう!』
と言うアリーナの言葉で、サントハイム城の近くにあるサランで防具やら武器やら買って、早々に旅立ち、さらに北へ移動する事にした。北にはテンペの村があり、そこからさらに東へ進むとフレノールがあり、そしてその南にはエンドールがある。
王はサントハイム大陸内で、と言う事で了承していたが、アリーナが大陸内で収まるたまではないと言うことは王も重々承知なので、いずれは全大陸へ旅に出る事を許可するとは思うのだが、ひとまずはこのサントハイム大陸内での旅でアリーナには我慢してもらうことになっていた。力試しをしたいというアリーナの意向だが、それと同時に姫として見聞を深めるために大陸を回ることは必要だと王は考えている。
これはブライがこっそりと王から言われたことだ。
サランでいろいろと調達しているときに、興味深い事を耳にした。
「テンペの村に最近魔物がやってきて、いけにえをとるようになっているらしい」
一同は早速テンペの村に向かうことにした。
呪われた村
テンペ村の雰囲気は、一言で言えばとにかく暗かった。村人の顔に生気はなく、村の中央にいくつもある最近作られたであろう墓がひどく悲しく見えた。一同は暫く村の様子に戸惑っていたが、やがてアリーナがくるりと振り返っていった。
「なにがあったのか聞いてみましょう」
たちは黙って頷いた。歩き出して、きょろきょろと人々を伺っていると、ふと老人が「もし」と声をかけてきた。
「見ない顔じゃが、旅人か?」
「ええ」
代表してが頷いた。
「ならば早く去るといい。この村におっても何もない」
「あの、いけにえって……どういうことなんですか?」
クリフトが問うと、老人はクリフトをじっと見て、やがて目を伏せて息をついた。しわがれた手でぽりぽりと頬を掻いて、ぽつりと語りだした。
「いつのころからか……北の森に怪物が住みつくようになったのじゃ。若い娘をいけにえに出さないと村ごと襲ってしまう、とゆうてきてのう。……今回は、村に残った最後の若い娘、村長の娘がいけにえになることになったのじゃ。」
「怪物? じゃあ、その怪物を退治すれば、一件落着って事?」
アリーナが“怪物”と言う言葉に反応し聞くと、老人は諦めたようにため息をついた。
「無理じゃ。怪物は強い……おぬしのようなおなごでかなう相手でない」
「おじいちゃん、馬鹿にしないでよね! いっとくけどあたし強いんだから。ね、?」
「あ、っはい! アリー…じゃなくて、彼女に敵う怪物なんて、そうそういませんよ!」
一応、姫であるアリーナは、その身分を隠して旅をしたほうが危険も少なくなると言う理由から、彼女の正体は明かさないでおく。勝気に瞳を光らせて、自身満々に言い放ったアリーナの姿に、老人は目を細めて「そうか」と笑みを浮かべた。
「ならばこの村の村長に会ってくるとよい。村長の家はこの村で一番大きな屋敷じゃ」
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「なんと! そなたたちが怪物を退治してくれると!?」
「ええ。まかせてください!」
村長は、それならば神父に会うように、と言い、アリーナの手を硬く握った。彼の表情はとても真剣で、縋るように「よろしく頼みます。」と言った。
一同は頷いて、村長の屋敷を後にした。
教会で神父に怪物退治を承るとの旨を伝えると、神父は驚愕に目を見開いた。
「怪物退治を! しかし、怪物が姿を見せるのはいけにえが捧げられたときだけ。いけにえの身代わりになってもいいと申されるか?」
「勿論! なんでもするわよ!」
「まってください! いけにえならわたしがなります!!」
大切なアリーナがいけにえになるなんて、には耐えられない。それにはクリフトも同感らしく、それなら私も!と挙手したが、彼は残念ながら若い“男”に分類されるので却下された。
「いいわよ。あたしがいけにえなるから。大丈夫、負けるわけないし」
「で、ですが……危険です」
なおもおずおずながら食い下がるに、ビシッとアリーナが言い放つ。
「だ、い、じょ、う、ぶ!」
「…………はい」
「わかればいいのよ。じゃあ、あんたたちはどっかで待機してなさい」
話がまとまったときに、ちょうど神父がいけにえ用のかごを持ってきて、アリーナはそのなかに入って教会から、教会の奥に広がる森へと運ばれていった。
残された、クリフト、ブライは何をするわけでもなく適当に佇んでそのときを待った。
「姫、大丈夫でしょうか……」
アリーナが運ばれて行った扉を見て、ため息をついたクリフト。彼を元気付けるようには笑顔で自分よりも幾分高いクリフトの頭をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫ですよ、だって姫ですから! ね、ブライさん」
「だがのう……。大体、わしらが力を合わせて勝てる相手かもわからぬのに……姫はいつも無理をなさる。亡きお妃さまはもっとおしとやかであったのに。ぶつぶつ」
ブライに話を振った事は間違いだったようだ。クリフトは先ほどよりも落ち込んだ表情でうなだれている。そんな二人を見てしまっては、もだんだん気分が落ちてくる。
(姫……大丈夫でしょうか。信じてます。信じてますけど……なんかここにいると心配になっちゃいます)
ため息をついて目をつぶると、不意に扉が開け放たれた。目を開けて扉を見ると、神父が息を切らして立っている。直感から、怪物がやってきたことを悟る。
「怪物がやってきました!」
思ったとおりで、は傍に置いてあった槍を持って駆け出した。