大地の裂け目では英雄王の言う通り、ドワーフのすみかがあった。簡単に見つからぬように細工がしてあり、それをフェアリーとウィル・オ・ウィプスが協力して見つけてくれた。
 ドワーフたちにノームのことを尋ねれば、丁度ワッツと言う男がノームを探しにいっているとのことなので、彼のあとを追うことにした。
 ドワーフという存在を知ってはいたが、実物は初めて見たので感動を覚えるが、それはほかのみんなも同じらしく、ケヴィンが目を輝かせてドワーフを見てるのが何とも可愛らしかった。
 トンネルを進んでいけば、穴を掘るドワーフの背中が見えてきた。声をかければ、やはり男はドワーフのワッツだった。

「最近、地震やら地鳴りやらが多いので心配してきてみたら、ノーム様が行方不明! おらはもっと穴掘って進むだ!」
「シャルちゃんたちも手伝うでち!」

 そのままワッツが掘り続けると、先へと続く穴が現れた。ワッツ曰く、こんな穴は今までなかったらしい。確かに、奥からはただならぬ雰囲気を感じる。地鳴りも大きくなってきて、明らかに何かがいる。

『とても近くに気配を感じる……、この先にノームはいるわ!』

 意を決して一同は穴の先を進むと、穴の先は大きな空洞になっており、陰から様子を伺えば、そこには大きなモグラのような獣がいた。ワッツは驚いて腰を抜かす。

「ひえ!! ありゃ伝説の地底獣、ジュエルイーターだがや!! 大地の裂け目は別名宝石の谷っていわれてるだ。その宝石の谷で、1000年に一度世界に異変が起こる時、ジュエルイーターは生まれるって言うぞ!」
「ははっ! 世界に異変……まさに今、って感じだな。さて、中はかなり狭いから、少数で行こう。は、ワッツと一緒にいい子で待ってるんだ」

 ホークアイがてきぱきと指示を出す。

「は、はい!」

 は速攻メンバーから外されたことに、若干ショックを受けるが、至極当たり前のことだから仕方ないのだ。メンバーに選ばれたら、それはそれで恐怖で震えるだろう。結局メンバーは、ホークアイ、ケヴィンが接近戦をし、アンジェラとシャルロットが少し離れたところで魔法で援護をする。武器が比較的大ぶりなデュランとリースと、戦闘初心者は待機だ。
 巨大な地底獣にも臆することなく立ち向かい、そして勝利した。

「ジュエルイーターは出るし、ノーム様は行方不明だし、一体どうなっちまうんだろう……」

 ワッツがぽつりと言う。

『だれだワシの噂話をしとるのは』
「ああ! ノーム様!! ご無事ですか!!」

 ノームがジュエルイーターの巣穴の奥から出てきた。ドワーフと少し似た容貌で、ふさふさの口ひげが特徴的な精霊だ。ワッツが喜びの声を上げる。

『あたりまえじゃ、見ての通りぴんぴんしておるわい! いつものように昼寝してたら、いつの間にかジュエルイーターのヤツに、巣穴まで運ばれちまったようじゃの。いやあ、もうすこし寝とったら、ヤツに喰われとったかも? わっひゃっひゃっ!』
「そんな、わらいごとじゃないですよ!」

 ワッツとノームのやりとりを眺めていると、ふわりとどこからともなくフェアリーが現れた。

『ノームさん! 私達に力をかして!! 聖域へのトビラを開くために、ノームさんたちの力が必要なの』

 フェアリーの登場に、ノームが分かりやすくテンションが上がった。

『ほほーっ! カワイコちゃんのおでましじゃ! わひゃひゃ、やんや、やんや! わしゃカワイコちゃんの頼みは断れないタチでのう……よかろう! どーんと任せなされ!!』

 鼻の下をデレっと伸ばした姿は、精霊というよりか、ただのオヤジにしか見えない。何はともあれ、二人目の精霊が味方になった。

「うひゃ〜あんたら、あのノーム様を仲間にしちまっただか! こりゃあたまげただ! そんなスゲー方とは露知らずシツレイしただ。オラにあげられるもんはこの、ニトロの火薬くらいしかねーです。もらってくんろ」
「そんな、お気遣いなく」
「いやいや! おらの気が収まんねえ!」

 なんだか物騒だが、半ば強引にニトロの火薬をいただいた。



土の精霊ノーム



 黄金街道を進み、商業都市バイゼルへたどり着いた。商業都市と言うだけあり、マーケットが盛んらしかった。女子と言うものは買い物が好きだ。ともすれば、たちも当然マーケットに心を躍らせたのだが、丁度パロ行きの船が出発する頃合いだったため、バイゼル観光もそこそこにすぐに船に乗り込んだ。バイゼル名物の、夜限定で開催しているブラックマーケットもとても気になるが、次回に持ち越しだ。
 ローラント……リースの生国で、今は滅んでしまった悲しみの国。リースは船に乗り込んだあたりから、浮かない顔だ。そしてホークアイも。リースの様子を気にしては、痛ましそうに目を逸らす。
 リースとホークアイだけの、触れてはならぬ領域。誰も何も言わず、ひたすらに船路を行く。


「……ん? あ、ホークアイ」

 船べりで夕日が沈むさまを眺めていたら、褐色の美男子から声がかかったようだった。予想外の登場に、の思考は一旦停止する。

「さっきからため息ばっかりじゃないか。なんかあったか?」

 どうして―――

「まさか船酔いか? かっかっか」

 自分だってツラいはずなのに、リースのことだって気にかけているのに、わたしのことまで気にかけてくれて。どうしてそんなに人のことを思えるの? ―――
 胸が痛くて、なんだか無性に泣きたくなった。嬉しいはずなのに、嬉しい気持ちの分だけ反比例するように意地悪な気持ちも膨らんでくる。リースのことが心配なくせに、放っておいてよ。なんて、思ってもないのに捻くれたような感情も溢れてきて、そんな自分の相反する気持ちに戸惑い、そしてもやもやする。

「……せめてヒールライトくらい覚えられたらって、思ってたところだよ」

 何とか取り繕った言い訳にしては、上出来だと思う。ヒール、対象を癒す呪文。ヒールを覚えたいのは本当のことだ。せめて癒しの術くらいは覚えて役に立ちたいとは常々思っている。

「ヒールライトねえ。たぶん、誰かを癒したい、助けたいって思う気持ちが、大事なんじゃないかと思うぜ。シャルロットが回復魔法を得意としてるから、聞いてみるといいかもしれないな。……よーし、特訓してみるか」
「い、今?」
「思い立ったがなんとやら〜っとね! ほら、ロッドを構えて?」

 手慣れた手つきでが背負っていたロッドを抜き取り、握らされる。

「おれを癒したいという気持ちで頭の中をいっぱいにして?」

 どうしてこう、ホークアイはどきっとする言い方をするのだろうか。さっきまでのどろどろした自分の感情はどこへやら、幸福な気持ちが胸を満たす。

「ホークアイのことは、いつだって癒したいって思ってるよ」

 ぎゅっとロッドを握り、目を閉じて祈る。ホークアイを癒せますように、幸せでありますように――――
 の言葉に、ホークアイが面食らったように目を見開き、やがて優しく目を細めたことは、目を閉じているにはわからなかった。