自由都市マイアは草原の王国フォルセナと同じ大陸にある都市で、港があることから物流の拠点であった。フォルセナはリチャード王の治める国で、デュランの生国だ。リチャード王はその戦果から英雄王と呼ばれていて、フェアリー曰く、きっとマナストーンについて知っているはずだということで、ひとまずフォルセナを目指すことになった。
 マイアにたどり着いたのは日が暮れる少し前だったので、ひとまず武器や食料を買い込んで今日のところは宿屋に泊まることになった。
 そしてついに、ジャドでは買えなかった武器や防具をはゲットした。デュランは剣、アンジェラは杖、ケヴィンはナックル、シャルロットはフレイル、リースは槍、そしてホークアイはダガーと言ったように、皆それぞれ特性を活かした武器を装備している。はと言うと、消去法でロッドになった。棍のような長さで、先端には魔力を秘めた魔石がついてる。
 買い出しや宿屋では様々な噂話を耳にした。その中でも気になったのが、聖都ウェンデルのことだった。

「光の司祭様が命がけの結界を張って獣人たちの侵攻を防いだそうだ! ところが、光の司祭様はそのために不治の病にかかってしまい倒れてしまったらしいぞ! その病を治せるのはヒースと言う神官らしいが、その神官も行方不明らしい」
「そ、そんな! おじいちゃんが! たいへんでち、すぐ、もどらないと……! うううっ」
「まってシャルロット!」

 の声もむなしくシャルロットは港のほうへと走っていく。シャルロットの後を追って港まで行くも、船は次いつ出航できるかもわからない状態の為、停泊したままだった。けれどシャルロットは頑なに港から離れようとしなかった。

「ねえ、シャルロット」

 アンジェラが声をかける。

「今あんたが戻ったって、どうにもならないんじゃないの?」

 少し冷たい言い方ではあるが、だれも何も言わずにアンジェラの言葉に耳を傾ける。

「司祭さんのためにも少しでも早くマナの剣を手に入れて、ヒースを探し出すのがシャルロットに今できる最善のことじゃないのかしら。あんたの気持ち、わかるけどさ。多分、司祭さんはそんなこと望まないと思うのよ」

 アンジェラの言葉は厳しいながらもシャルロットを勇気づけるものだった。

「冷たい言い方だったわね、ごめんね。でも、あんたが本当におじいちゃんを助けたいんだったらわかるでしょ? ね、涙を拭いて」

 アンジェラはシャルロットに歩み寄りハンカチを手渡すと、シャルロットは何かを決意したように頷き、涙をごしごしとふき取った。



草原の王国フォルセナへ





 デュランだった。夜、寝る前に宿屋のバルコニーで手すりに肘をついてぼうっとしていたのだが、見つかってしまったらしい。

「夜風が冷たいから風邪ひくぞ? それに明日寝坊しちゃうぜ」
「気遣いありがとう。そうだね、そろそろ寝ないと。デュランはどうしたの?」
「もうすぐフォルセナに戻るって思うと少し緊張しちゃって。バルコニーにきたら先客がいたってわけだ」
「邪魔しちゃってごめんね、どうぞ、バルコニーの独占権はお渡しします」
「あっ、いや、その……風邪ひくぞなんて言っておいてなんだけど、ちょっと付き合ってくれたら、嬉しいというか……」

 ばつの悪そうに頬をかくデュラン。は笑みを零すと、お隣いかがですか? と言うと、デュランはそれに従い隣にやってきた。

「紅蓮の魔導師を倒すまで城には戻れません! なんて英雄王に言ってフォルセナを出てきたんだけど、まさかこんな形で戻るとはな。ちょっと恥ずかしいっていうか」

 デュランも同じように手すりに肘をついて、ため息交じりに言う。まだ紅蓮の魔導師を倒すこともできていないし、クラスチェンジもできていない、なんなら紅蓮の魔導師と出会ってさえもいない状況では、戻りづらいというのも頷ける。

「確かにすごく戻りづらいね。まあでもさ、英雄王さまもデュランの元気な姿見たらうれしいんじゃないかな?」
「ううん……確かにな、そういってくれると若干気休めになる。ありがとうな」

 あ、そういえば、とデュランが表情をいくらか明るくして話を変えた。

「ついにも武器を手に入れたな。正直、おれとしてはあまり戦ってほしくないけど、護身用としてもっておくことに越したことはないからな」
「わたしに扱えるか不安だけど……」

 刃物がついているものは怖い、またシャルロットのようなフレイルは扱いが難しい、勿論己の肉体を武器にするなんてもってのほか。そこで殴打することもでき、かつ魔法を放つこともできるロッドと言う武器になった。(と言っても、魔法を覚えられるかどうかはわからないが)これで近寄ってきた魔物をロッドで振り払うことくらいはできるだろう。

「リースはすごいよね、あんな華奢で美人なのに槍で一網打尽なんだもん」

 しなやかな動きで槍を振り回し突き刺す。本当にかっこよかった。対する自分はどうだったか、フルメタルハガーとの戦いの時も少し離れて見ているだけで何もできなかった。フェアリーはきっと、自分じゃなくてリースみたいな人が宿主だったらよかったんだろうな、なんて自己嫌悪に陥ったものだった。

「人には適性ってものがあるから気にすることはないぜ。おれは剣術は得意だがアンジェラのように魔法は使えないし、かといってホークアイのように二刀流で動くこともできない。だから……つまりそういうことだ!」
「途中までいい感じの言葉だったのに、最後なんでまとめるの諦めちゃったの?」

 くすくす笑いながら、デュランらしくていいけど、なんて言えば、デュランは照れ臭そうに、ウルサイなあは。なんて眉を寄せた。

「でもありがと、なんとなくデュランの言いたいこと伝わったよ。わたしにはわたしに向いた戦い方があるってことだよね? みんなと違って戦いの経験が全くないから、役に立つのに時間を要すると思うけど……わたし頑張るから!」

 ぐっとこぶしを握って言えば、デュランは優しく微笑んで、おう。と頷いた。

「ねぇデュランって女兄弟いる?」
「急になんだ? いるよ、ウェンディっていう妹が」
「やっぱり」
「やっぱりってなんだよ」
「女兄弟がいる男性っぽいなあって思って」
「な〜にしてるんだ? 、親分にナイショで夜中の逢引なんてダメじゃないか」
「ホークアイ!?」

 とデュランの声が綺麗に重なる。いつの間にやらホークアイがバルコニーにやってきたのだった。

「ああああ逢引なんかじゃないよ! たまたま、その!」
「あっはっは、そんな慌てて否定されると本当っぽくなっちゃうぜ?」
「おおおおれとはそ、そんなんじゃないっつうの!」
「だから、そんな慌てて否定されると本当っぽいって。デュランがなかなか戻ってこないから心配して見に来たらどうやらお邪魔だったみたいだな」
「ちがうっつの!」
に手を出すときはちゃんとおれの許可を取らなきゃだめだぞ、デュラン」
「だから―――」
「も、もう寝よ二人とも! おやすみ!!」

 けらけら笑ってるホークアイに、必死になって否定するデュラン。二人の肩をぽんぽんと叩き、は足早にバルコニーを立ち去った。