最後にシャルロットはローラントの説明をしてくれた。ファ・ザード大陸北東部の山岳地帯にある風の王国ローラント。周囲は崖で、自然の要塞に守られているのと、更にアマゾネス軍が国の守りを固めているため難攻不落と名高い王国であった。
 しかし、ナバール盗賊団に侵略を受けて一日で国が滅んでしまったという。

「生き残ったローラントの王女が行方不明の弟の捜索と、国の再建のため旅立ったって聞いたけど、まさかそれがリースだったなんてね……」

 アンジェラが悩まし気に眉根を寄せた。

「……オイラわかる、大切な人を亡くす悲しみ……リース、辛い。でもホークアイも辛い」

 まるで自分のことのように心を痛めているケヴィンは本当に心優しいんだろうな、なんては思う。父を亡くし、弟が消えたリース。親友殺しの罪を着せられ、けれども本当のことを言えず、故郷を追われる身になってしまったホークアイ。その二人だけではない、ここにいるみんなは心に傷を背負っている。

「ま、国の情勢はこんな感じだな。一度に言われてもよく分からねえと思うけど、俺たちはこれから世界を巡って精霊を探さにゃならねえから、この世界で過ごすうちにわかってくると思うぜ」
「そうだね、みんなありがとう」

 確かにデュランの言うとおり、すぐに全ては覚えられそうにはないが、ひとまずナバールとローラントの話はしないほうが良いというのは心に留めておこうと思う。

「そうだ、今度はの国の話をしてくれよ! はどんな所に住んでたんだ?」
「わたし!? どんな所かあ……わたしの住む世界にはラビみたいなモンスターはいないし、戦ったりもしたことなかったなあ。あまりに違う世界過ぎて、どこから説明すればいいのやらって感じだよ」
「向こうの世界にその、恋人とかいたのか?」
「やっぱデュラン気になってるんじゃん! うっわーわかりやっす!!」
「は、はあー!? うるせーアンジェラ!! 別にそんなんじゃねえわ!!」
 
 デュランの絶叫とほぼ同時に部屋の扉が開いて、ホークアイとリースが戻ってきた。

「……どうしたんだデュラン、そんな大きな声出して」
「扉越しでも聞こえていました」
「な、なんでもない! あー腹減った! 飯にしようぜ!?」
「確かにお腹すいたわね。じゃあご飯いきましょ? もうお腹ぺこぺこよ。今の話は食事をしながらしましょ」
「シャルロットもきくー! さ〜みんな、いきまちょ!」

 ホークアイとリースの間の空気は決して自然とは言えないが、それでも飛び出していく前と比べたら幾分よくなっている。そのことを嬉しく思いつつも、心の奥に複雑な思いを抱えながらはみんなと共に宿の食堂へと向かった。

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 翌日、たちはウェンデルを旅立った。まずは司祭やフェアリーの言っていた通り、滝の洞窟の中でウィル・オ・ウィプスを探すことにした。滝の洞窟は来た時同様湿気が凄く、足元も滑りやすかった。

「シャルロット、すべって転ばないようにね?」
「あ〜〜しゃんすぐこどもあつかいする!!」
「違うよ、心配してるんだって」
「シャルロット、オイラと同い年! ぜんぜん、見えない」

 ケヴィンとシャルロットが同い年とは思わなかった。ケヴィンは半分獣人なだけあって年齢がわからない。すごく幼くも見えるし、すごく大人びても見える。

「あ、ねえ、この滝の水からマナの力を感じる……!」

 ふわりとの傍から出てきたと思ったらフェアリーが大きな滝を見据えてそんなことを言った。来るときも通った大きな滝だ。ここにウィル・オ・ウィプスが、なんて思っていたら、水面に大きな波紋がいくつも浮かんで、そして、

「な……! でっかいカニだ!」

 フェアリーのもつマナの力に反応したのだろうか、ホークアイの言う通り大きなカニが轟音を響かせながら滝の底から浮上してきた。人の何十倍と言っても過言でもないほどの大きさで、どうやら味方ではないようだった。あまりの大きさに足がすくむ。あのはさみでちょきんとやれらたら間違いなく綺麗に真っ二つになるだろう。

「こいつ、フルメタルハガーって言うんだけど、この中にウィル・オ・ウィプスがいるみたい! さあみんな、倒しちゃって!」
「た、倒しちゃってって! 簡単に言わないでよ!」

 フェアリーがさも簡単そうに言うのでが堪らずツッコむ。

「大丈夫、おれたちに任せなって。おれが守るから怪我するなよ、お姫様」

 こんな時でもホークアイはカッコいい。ウインクをしながらに言うので、は心臓が爆発しそうな心地になった。遠くのほうで「ホークアイってほんとに見た目通りキザなのね!」なんてアンジェラの声が聞こえてきた。