「で、デュラン、あんたはどこへ向かう途中なんだ?」
「ああ、俺はな――」

 デュランは草原の国フォルセナに住む雇われ傭兵で、フォルセナで年に一度開催される武術大会にて見事優勝したのだが、その夜現れた“紅蓮の魔導師”と言う魔法を操る男に敗れてしまう。彼を倒すべく、クラスチェンジの方法を伺いに、聖都ウェンデルへ向かっている途中だった。

「おお、デュランも司祭のもとへ? 奇遇だな、俺も司祭さんに会いに行くところなんだ」
「なんだ! それなら話は早い。ウェンデルまで一緒に行こうじゃないか。ホークアイは司祭に何を聞きに行くんだ?」

 ホークアイの事情はも何も知らない。彼の話す言葉にデュラン以上に注意を払った。

「俺が住んでいたところは、俺とが出会ったあの砂漠の本拠地である砂の要塞ナバール。フレイムカーンが統治する、義賊の集団だったんだが……」

 ある日突然、他国への侵略とこの砂漠に王国の建国を宣言したという。あれほど王さまという存在を毛嫌いしていたのに、王国を作ろうなんて、絶対にフレイムカーンは考えない。不審に思ったホークアイと、フレイムカーンの息子であり、ホークアイの親友であるイーグルと原因を調べると、最近フレイムカーンに付け入ってきたイザベラというやつがフレイムカーンを操っていることを突き止めた。
 しかし探っていることがイザベラにばれてしまったため、イーグルまでもがイザベラに操られ、ホークアイに襲いかかる。イーグルと戦うホークアイ。峰打ちで戦い続け、やっとのことで正気に戻ったイーグルだが、イザベラによって殺されてしまう。だがイザベラが「人殺しだ! ホークアイがイーグルを殺した!」と叫んだため、武器であるダガーを構えていたホークアイは状況が状況だけにあっという間に人殺しに仕立て上げられた。
 親友二人を戦わせ、片方に死を、片方に仲間殺しの罪をなすりつけ、真実をすべて闇の葬る。すべてイザベラの計画通りだった。―――はずだった。
 イザベラによって仲間殺しの罪をなすりつけられ、更にはイーグルの妹に、ホークアイが本当のことを話すと死んでしまう呪いをかけた。なので本当のことを言えないうえに、状況的に圧倒的に不利なホークアイは、孤立無援状態になってしまう。
 しかし一人の仲間の助けを受け、どうにかこうにか牢獄から逃げ出すことができた。これによりイザベラの計画が崩れた。
 ホークアイはイーグルの仇討ちを心に誓い、彼の妹の呪いを解く方法を尋ねるべく、聖都ウェンデルへ向かった。脱獄はすぐに見つかり、ホークアイは追われる身となり、ジャドの船着き場まで命からがら向かった。
 そしてその途中に、砂漠で今にも死にそうなと出会い、今に至る。

「……そんなことが」

 それしかでてこなかった。この飄々とした姿からは想像できない、ここに至るまでの壮絶な経緯。だから砂漠で出会ったとき、彼はとても嫌そうな顔をしたのか。そんなのあたりまえに決まっている。もし自分が同じ状況で、砂漠で誰かを見つけた時、はたして助けられただろうか。

「わたしのことを助けてくれて……ありがとうございます」

 は深々と頭を下げた。

「いやいや、目の前に死にそうなやつがいる。そんなの助けるにきまってるだろ?」
「そんな……わたしだったら、無理だったかもしれません」
「ホークアイ、お前、いいやつなんだな」
「俺だって迷ったさ。でも、見捨てないでよかった。こんなかわいこちゃんと一緒に旅ができるんだからな」

 ずきん。彼に出会ってからこの胸を射られたのは何度目だろう。本当は辛いのに、そんなの悟らせないようにわざと明るくふるまっている。それがわかるから胸を射たのはときめきだけではなかった。

「……で、は?」

 おずおずとデュランに尋ねられる。すっかり自分の話をすることを忘れていた。

「あっわたしですか? わたしは……ニホン、というここからとてつもなく遠い国に住んでまして、けれど起きたら、砂漠にいまして、死にかけてたところをホークアイに助けられました。いまは、何もないわたしを拾ってくれたホークアイの子分です」
「ふうん……。ニホン、か。聞いたことないな」

 デュランが眉を寄せる。

「まあ、一緒に頑張ろうぜ。ニホンのこと、司祭なら知ってるかもしれない」
「確かに! わたしも、司祭さまとやらに用事が出来ました」
「いろいろ喋ってるうちに、もう日が暮れたらしい。いこうぜホークアイ、

 窓から覗く空はもう闇に染まっていた。先ほどの門へ向かうと、日が昇っていた時は確かに人の姿をしていた二人の門番が、人狼の姿になってジャドの外を駆けまわっていた。

「ようし、思った通りだ」
「お前、ちゃらちゃらしてるように見えて、頭いいんだな!」
「人は見た目で判断しちゃ〜いけないぜ。さっ、俺たちの姫さまを守りながらいくか!」
「ひっ!? ひひひ!?」

 はホークアイの思わぬ発言に、盛大に動揺する。デュランも驚愕して「姫さまだあ!?」と驚く。

「前言を訂正する。お前ってほんと、ちゃらちゃらしてるな!」
「はっはっは! ほめ言葉だな。よし、いくぜ。、俺たちから絶対に離れるなよ」
「は、はい!!」

 門の傍に転がっていた鍵で門扉の開くと、外へ出た。右にデュラン、左にホークアイという両手に花ならぬ両手にイケメン状態で駆けだすが、音に気付いた狼たちが、一斉に襲い掛かる。二人はを守りつつ無駄ない動きで狼を倒していった。

「怪我はないか?」

 すかさずホークアイが尋ねる。

「はい! ちっとも!!」
「ならよかった。これでジャドから出れたな」
「やりましたね!」

 デュランとは視線を交えて喜びを分かち合った。。

「さて、宿で世界地図を見てたんだが、ジャドを南下すると滝があって、そこの洞窟を抜けると聖都ウェンデルらしい」

 と、ホークアイ。

「じゃあこのまままっすぐいけばいいんだな?」

 デュランが確認し、ホークアイは頷く。

「そっ。で、そこで提案なんだが、滝の洞窟からさらに南下すると、アストリアってところにでる。そこでの武器を調達したい。どう思う?」
「なるほど、、武器がないのか。ならアストリアに寄るべきだろうな」
「いいんですか、わたしのために?」
「前も言ったろ? 武器を持ってくれてたほうがこっちとしても安心できるって。デュランも多分同じ意見だ」
「おう」
「重ね重ねありがとうございます……」

 深々と頭を下げた。



それぞれの事情と