「だめ、だったのですか…。」
「…ああ。」

とても張り詰めた空気だった。

「もう、あれ以外方法がないんだ…。」
「ですがアレク様、千も…千もの珠魅を殺してしまっては…」
「じゃあどうすればいい!?このまま黙って蛍さまが死んでいくのを見守っていろとでもいうのか!?」

大声を出したアレクさまにおびえてしまい、わたしは肩を震わせた。
は、と気付いて「すまない。」と瞬時に謝り、わたしをそっと抱きしめた。

「俺だって、できればそんなことはしたくない。でも…俺には蛍さまを見殺しにすることなんてできない…。」
「いずれにしても珠魅は滅び行く定め…。」

もう残っている珠魅はわずかだ。そう、ちょうど蛍姫様を救えるか救えないかぐらいの数だろう。
そのなかに涙石を生み出せるものは一人もいない。

「アレク様。これからアレク様がやろうとしていることはマナの女神は赦しはしないでしょう。」

一人の人を助けるために千人の生け贄をささげるしかないなんて、マナの女神はおろか
誰もが赦してはくれない重罪であることは確かだった。

「ですが、わたしはアレク様のことを赦します。誰もが赦さずとも、わたしだけはアレク様を赦します。
 …ちっぽけなわたしにできることは、アレク様を赦すことしかできません。ですから、やりましょう。
 蛍姫様のためにも。」
…ありがとう。」

狂気だ、と誰かが言っても
別にかまわない。
一緒に地獄に堕ちたって
一向に構わない。
それがわたしの選んだ道。

「どこまでもついてきます。」

罪びとへ愛をこめて。